あるアナクロ技術者の日常のひとコマ

あるアナクロハードウェア技術者のちょっとした日常など

こんな記事が…

ご無沙汰しております。
元電源屋として気になった記事があったので。

全てのノートPCを充電できるようACアダプターの規格統一化が進行中


…なんの冗談ですか?と言いたくなってしまった私。
電源プラグ自体は、低電圧品は確かEIAJが規格化して、電圧範囲ごとに決まったものを使う方向になったはずだけど、電流決まってないから結果それぞれの専用品使うハメになってるはず。
まぁ、この場合、ドロッパタイプとスイッチングタイプが混在することになるから、当たり前といえば当たり前だけど。


で、話は戻ってノートPCのアダプタについて、統一したら…と考えて空恐ろしくなった。
日本国内で販売するためには電気用品安全法に適合していないといけない。
だから安全だ!なんて言うのは非常に短絡思考。
実は出力保護まで規定されているわけじゃない。
アダプタの出力保護は千差万別。

例えば、ショート保護なんか、フの字特性といって、ショートしてるのがわかったら出力止めて、一定タイミングで出力してチェック、問題なければ自動復帰、なんていう特性持ったアダプタから、ショートしてたら出力オフのままでAC抜いてしばらく待たないと出力してくれないもの、それどころかショートしていても一定電圧を出し続けるものまである。
使う本体側が、どんなアダプタが使用されるかわかっているから、この組み合わせなら、と設計しているのに、それがどんなものが使われるかわからないことになるので、安全性確保のためのイレギュラー系評価が格段に増えることになる。
こうなると、間違いなく面倒な手間が増えるだけで、本体側は値段が上がる方向にしか向かわない。そして、今まで以上にPL訴訟にビクビクすることになるわけで、保険のためにも値段を上げたくなるだろうね。もっとも、それが許される環境にないわけだから、電機メーカの首を絞めることになるだろう。

そのほかにも、異常系保護には、過電圧出力保護がどんなものになっているか、など様々なので、他社のアダプタ使っても保障しろなんてのは、メーカの品質保証部門的には絶対にやりたくないことのひとつだろうな。

ただしアダプタは安くなるだろうね。
品質が良いかどうかは別の話として。
大量に作るメーカのアダプタだけが流通することになると思うので、不良率が低い良い生産状態だとしても、母数が増えるから市場での不良品流出率は増えるはず。
その結果、発煙、発火に至る事故や、それに伴う火災などがあったら、本体とセットで出したメーカが責任を負うことになる。

と、こんな風に電源のみ見ていた頃には思ったわけだが、今現在の仕事であるEMC技術者としては、これに加えてEMC的な観点からもNoと言いたい。
仮に出力電流まで規定できたとしても、省電力化が進むと想定外に電流を消費しない状態が発生する可能性が増えると思う。
セットで出荷されている分には、その省電力化に伴い電磁ノイズを発生させたとしてもメーカに責任が発生するし、セットであるからアダプタメーカも対応に協力することになると思う。
が、これがアダプタと本体バラバラだったとしたら…たぶんアダプタメーカは知らん顔。
だって、設計時想定していないものだから、問題出るのが当たり前、といわれても反論できません。
というか、そーゆーことを平気で言って、安く作って安く売るメーカしか生き残らないと思うからでもあるんだけど。

さて、そんな電磁ノイズが放置されると、どんな問題が出るか、ということにも意識を向けてみましょう。
テレビが見られない?ラジオにノイズがのる?携帯が使えない?WiFiで通信できない?
このくらいなら可愛いもの。個人のレベルで問題が出る程度です。
無線に関しては、周波数帯域ごとに使用用途が決められているわけですが、その中には、警察無線、消防無線、鉄道無線、船舶無線、航空無線などもあるし、救難信号や防災無線の帯域もあるんです。
自分が理解できる範囲に問題がなく、これら重要な無線帯域に悪影響出したとしたら…

ちなみに、電気用品安全法では電源伝導妨害波に関する規定がありますが、抵抗負荷で確認できたはずで、実負荷で測定すると結果が大きく違うなんてのは当たり前のようにおきるわけです。
実負荷は一定じゃなく変動しているので、相互で経路含めたインピーダンスによる影響を受けるから、こんなことがおきるわけなんだけど。

スマホ充電用アダプタがMicroUSBで統一できたのは、電圧と電流範囲が狭い範囲で固定できたから、に過ぎません。
PCの急速充電等の充電制御まで考えると、おそらく実現できないでしょう。
更に言えば、大出力可能な小型アダプタのようなものは、値段が高くなってしまうので、次第に衰退していくことになるんだろうな、と「悪貨は良貨を駆逐する」な状態になることが怖いと思うのでした。